めんたいこ日記

鯨井可菜子が短歌について書くところ

『別冊北山あさひ』収録エッセイ全19編ライナーノーツ

大変お待たせいたしました。『別冊北山あさひ』、期間限定で自家通販を開始しました。

*まずは2021/2/14までの受付としております!是非この機会に!

docs.google.com

 

さて、この記事では、収録した19編のエッセイ・散文について書きます。
この別冊作成にとりかかるにあたり、北山さん本人と、編集を担当した佐巻さんと私はそれぞれ、ブログ「北山あさひのぷかぷかぷー」を最初から最後まで通読して、意見を持ち寄りました。その後、初出が異なる原稿を足したりページ数の関係で泣く泣く削ったりして、最終的に北山さんがすごく加筆修正をがんばって現在の形(18編+書き下ろし1編)に落ち着いた次第です。

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以下、なるべくネタバレのないように書いていきますので、購入してみようかな!という方はちらっと見てみてください。そしてお手元に「別冊」がある方も、ぜひご覧いただけると嬉しいです!


書き下ろしエッセイ その名は「ファーマーズ8」

北山あさひのエンタメ精神が炸裂。それでいて、世界中が未曾有の事態に見舞われている今、タイムリーに読みたい文章になっている。『崖にて』の連作「ALIVE」や、『短歌ホスピタル』(2015年)所収の巻頭エッセイ「医療の仕事の楽しみ方」を合わせて読むと楽しいのでおすすめ!

ほんとにもうゼネカ様にコロナをなんとかしてほしい。あと私はジョンソン姉妹と今冬のベスコスについて小一時間語り合いたい。

 

*以下、Ⅰ〜Ⅲの3つの章に分けて収録。実際の冊子では、各章の間に一首評が挟まっています。


Ⅰ 北山あさひのぷかぷかぷー

晴れの日はプカプカプー(2012)

記念すべきブログ1本目の記事。9年前のものになります。この文章で好きなフレーズは「度肝抜き」。私は私でもう長い間、北山さんに度肝を抜かれまくっている。

 

Communication(2013)

初めて読んだ頃からずっと心に残っていた。私はこの文章の魅力について何度も立ち止まって考えてしまう。誰しも、職場に苦手な人、嫌いな人はいるだろう。だけど、そこを起点にどうしたらこんな文章が紡げるのか。何度読み返しても胸がギュッとなる、でも読後にはほんのり風が吹くのだ。


婦人科検診へようこそ(2015)

女性にだけついてまわる色々なこと。ときどき本気で燃やしたくなるけれど、自分の身体はやはり自分だけのものなのだ。レミ先生がマジでレミ先生です。


父アキラ、死出の旅(2015)

書き出しも衝撃的ながら、最後の一文に私は永遠に殴られ続ける。簡単に言うべきではないけれど、私は、これは「供養」なんじゃないかと思う。何度読み返してもこの一言が、冬の夜空のシリウスのように、輝き続ける。

 

蒼い夜と老婆になる私(2016)

雪。これから北山あさひが何度でも書くだろう雪のこと。読むうちに周囲の空気が透き通り、蒼くなり、そして音が消える。

 

わたしたちだけの原野(2016)

仕事を終えて、同僚と焼肉を食べに行く。ごくありふれた日常の一コマなのに、こんなことになってしまうのがマジで北海道(震え声)。途中、さらっと書かれているけれどけっこう怖いシーンがある。

 

松本先生のサンドイッチ(2016)

高校時代の先生の思い出。終盤の、授業中の出来事の記述が光る。ここで「私」を差し出しているから、この文章は心に残るのだと思う。

 

名前をつけてやる(2019)

名前をつける、という行為への考察。思考停止ボタンのようでもあるし、一方で大切なものにとくべつな運命を授ける力をもっている。

 

まくらのそうし風に(2019)

春夏秋冬の、好きなもの。札幌の空気が鼻の先まで、「こんにちは」ってやってきてくれる、そんな一編。

 

Ⅱ 夜からこぼれた物語

*この章はタイトルの通り、物語形式の文章を集めたもの。少しだけあらすじを解説します。

ファミリーレストラン・アイドル~激走編~(フリーペーパー「ココロブス」,2014)

海辺のとある町の国道沿いに立つ「ファミリーレストラン・アイドル」。そこでアルバイトをする高校生・マリの視点で、ある日の一場面が紡がれる。短い夏の光が、マリの世界に独特の陰影をつくりだす。書き出し、そして最後の一文が絶品。

(「アイドル」には、後編とあわせて谷じゃこさんが素敵なイラストを寄せてくださっています!)

 

ストーブ点検物語(2013)

「北山さん」の家に暖房の点検にやってきた、「植村さん」と「工藤さん」のおはなし。これは鯨井最推しの一編!

数年前に飲んだ串鳥の鶏スープは、確かにトレビアンだった。また行きたいなぁ。

 

死神のこども(2013)

就職活動中の「私」が帰宅すると、家出した「死神のこども」が忍び込んでいて……。家出の理由とは、そしてその顛末とは。

しばらくすると起きたので⾯接の練習につき合わせた。「生きがい」という言葉を使うたびに死神のこどもは「ヒヒッ」と笑った。最初はまじめにやれと注意していた私も、だんだん「生きがい」という言葉がおかしくなってきて一緒に「ヒヒッ」と笑った。

ところで、エッセイのいくつかには「2020年の追記」が添えてあるのたけど、この「死神のこども」の追記はさらっと読んで二度見した

 

顎を割られた平井くん(「ぼけっと」第1号,2014)

怪我をして学校を休んでいた「平井くん」に、「プリントやらノートのコピーやら」を届けにきた学級委員の「私」。

「顎を割られた平井くんに久しぶりに会った」。何度も書き出しの魅力について触れてきたけれど、これもまた衝撃的。

 

幽霊まん(2014)

雨の夜、友人のSNSを見て憂鬱になってしまった「私」。夕食をとっていなかったことに気づき、チルドの肉まんをレンジで温めたのだが……。

前半ににじみ出る心の痛みと、思いもよらない後半の読み味のギャップがたまらない。「2020年の追記」も読んで、世の中の変化も感じてほしい。後半に登場した人物については、私は途中から何故か脳内で大泉洋がしゃべるようになってしまい、困った。

 

ファミリーレストラン・アイドル~閉店編~(2013)

「激走編」のその後を描いた続編。サブタイトルの通り、海辺のレストラン「アイドル」に閉店の日がやってくる。

大好きなフレーズを、前後が謎のままあえて引用(ぜひ全体を読んでほしい)。

桃⼦さんは眉ひとつ動かさずに⻯⾺を茹で、⼩五郎を焼き、すべての勝⾙⾈を開いた。

店長の最後のセリフは、作者の祈りや希望かもしれない。そして最後の一文が、潮風に吹かれ続けるように余韻を残す。

(「閉店編」はブログが初出。「激走編」「閉店編」は掲載媒体が違ったこともあり、元は2編とも同じタイトルだったのを、今回別冊に収録するにあたり本人がサブタイトルをつけました)


Ⅲ いつも春の街

その島へ(「歌壇」2019年5月号)

兵庫ユカさんの歌の鑑賞から始まるエッセイ。その島へ、いつかみんなで一緒に、たどりつきたい。

 

いつも春の街(2014)

こちらは佐巻さん最推しの一編。短いながら名作。「そうこうしているうちに」の一文が何度読んでも好き。

 

十一月二十六日の目白通り(2019)

2019年11月26日というのは現代短歌社賞の授賞式があった日です。

お願い全人類読んで。

 

 

まだまだ多くの方に届けていきたいと思います。よろしくお願いします!